ヨセミテ国立公園 3日目 Yosemite National Park ~ Day 3 / by SHIMPEI

ヨセミテ3日目の朝。
今日の行程には割と余裕があるため、朝はゆっくりとハーフドームビレッジ(旧カリービレッジ)を楽しむ。

まずは朝ご飯を食べにカフェへ。

注文を待っている間にサクラメント在住のジム(顔の感じからして)に話しかけられる。

頼み損ねたフルーツが後ろのレストランにある事を教えてくれ、日本から来た事を伝えるといい国だな、富士山の国だ。と喜んでくれひとしきり住んでいる場所や、ヨセミテの滞在期間など世間話をしてくれた。
親父が癌でさー、健康には気をつけなよ。
なんてヘビーな話題をさらりと素性の知れない日本人に話すあたり、アメリカ人の鑑だと思った。

こういう人が1人でもいるだけでその土地の印象がガラリと変わる。ジムのお陰でアメリカは好きな国リストに追加された。サンキュージム。

朝ご飯を食べたらいよいよバックカントリーに入る為の準備だ。ハーフドームビレッジは素晴らしかった。

結局最寄りのトレイルヘッドのハッピーアイルズから出発したのは12時半だった。

今日1日はジョン・ミューア・トレイルを歩く。

アメリカに数あるロングトレイルの中では全長340kmという距離は短い部類に入るが、帰着点がヨセミテバレーにあるこのトレイルは、世界中のハイカー達が憧れてこの地を訪れる。
最初から最後まで通して歩くスルーハイクはもちろん無理だが、全行程を何度かに分けて歩くセクションハイクならば、今回挑戦することで、永遠のやってる途中だ状態を作り出せる。そのことに気づき迷わずジョン・ミューア・トレイルのルートを歩くことにした。

そういうわけで、現在、我々はまだジョン・ミューア・トレイルをセクションハイク中だと胸を張って言えると思っているのだけど、どうでしょう。

序盤はしばらく急登が続き、やはり昨日と同じく暑さにやられる。
教訓を活かし水は多めに持ったが、その分だけテント泊の荷と共に重量は増してしまっている。特にジョン・ミューア・トレイルの分岐に入ってからしばらくはスイッチバックが続くため体力の消耗が激しい。
ジグザグと辛い登りに耐えかねた奥さんから「あと何回?(ジグザグが)」と問い掛けられるが「あと2回。もうすぐ」という何の根拠もない返事で元気付ける。

ただ大体においてそんな適当に答えた内容が当たっていることもなく「まだ続いてるけど!?ウソつき!!」と猛抗議を受ける。そんな時は「見てあの山。丸いなー」と巧妙な話術で話を逸らしながら、騙し騙し歩き続けるという作戦で乗り切った。   

辛いつづら折りの急登を登りきると随分と景色も良くなってきた。
出発してかれこれ3時間程歩き、今日の行程の半分位来たところで昼食を食べることに。

 が、ここにきて思わぬトラブルに見舞われる。

お湯を沸かす為に持ってきたバーナーとガス缶が合わないのだ。接続しようとすると途中で勢い良くガスが漏れてしまう。

 え?いやいや。と思った。 

ゆっくり回したり、一気に締め上げようとしたりと手を尽くしたがどうやっても尋常じゃない量のガスが噴き出してしまう。

え?いやいや。そんなそんな。

疲れた体を回復させるご飯を食べられないとなると、これはこの先とてもじゃないが歩ける気がしない。その後も何度もトライするが、物が物だけに危険を冒すわけにもいかず、ガスの使用は諦めるしかなかった。

暫く無言になる2人。

この信じがたい状況に思わず膝から崩れ落ちそうになるが、オデッセイで火星に取り残されたマット・デイモンの逆境に負けない精神を思い出し、他の選択肢を見つける為に頭を切り替える。
いや、正確にはオデッセイは帰りの飛行機で見たから、この時はそれを思い浮かべていた訳ではないけど、この際時間軸は何だっていいや。あれはとってもいい映画だった。
とにかく逆境に負けずに立ち上がったのだ。

幸いにも持ってきたアルファ米は、水でも時間はかかれどちゃんと戻ると説明文に書いてあった。この際贅沢言ってられないという事で、荷物を纏め、1時間後の出来上がりを待つ為に水を入れたアルファ米を持って再び歩き始めた。

その後食べた冷えたご飯とカレーは、もちろん無いよりはずっと良かったが、楽しみにしていた分精神的なダメージが大きく、食べ終わった後にはどちらからともなく大きなため息が洩れた。ふうーー。

気を取り直して残りの行程を歩く。
時間は16時過ぎ。

ネバダフォールに着くと突然視界が開けた。

それまで乾いた土の上を歩き続けてきたが、突然青々とした水が流れ、滝につながる川には橋のかかる楽園の様な場所に出た。

自然物にも関わらず、疲れた登山客にこれでもかというベストなタイミングで現れる景色に、アメリカのエンタメ精神の源流を見た気がした。昨日は思いとどまったが、ここではもう我慢出来ず2人して急いで靴を脱ぎ、水に浸かる。最高に気持ちがいい。四つん這いのみっともない体勢で、頭も水に浸す。

前を見るとアメリカ人は満面の笑みで泳いでいた。

昼食で回復できなかった分をここで十分に取り戻し、再び歩き出すと今日の目的地まではすぐだった。

1時間もしない内に今日の目的地、リトルヨセミテバレーに到着。所々倒れた木と、そびえ立つ木々の間に、ポツポツとカラフルなテントが見える。流石に人の多い時期だけあって20張以上はテントがあったのではないだろうか。

僕らも適当な場所にテントを張り、荷物を整理をしているとレンジャーが許可証のチェックをしにやって来た。チェックが終わると一通り熊の対策に関してレクチャーされ、近くにいるから気をつけろよ。と脅される。
確かにヨセミテでは熊には十分な注意を払わなければならない。
食料含め、匂いの出るもの全ては鉄製のフードボックス、もしくはベアキャニスターに入れなければならないし、フードボックスの備えがない場所でテント泊するなら、大きく重たいベアキャニスターを持ち歩かなければならない。臭いの出るものを間違ってテントに入れたまま寝ようものなら、夜中に臭いにつられてやって来た熊に丸呑みに、は、されないだろうが足の先っぽ位は一緒に食べられるかもしれない。

幸いにもヨセミテの熊はブラックベアーという種類のようで、グリズリーなどと比べると体格も小柄で臆病なため、万一出会ってしまっても、手を叩いたり大声をだして追い払うことは出来るらしい。
らしい、が、本当だろうか。
ヨセミテバレーで流れていた注意喚起の為の映像で映っていた熊は、想像しているよりずっと大きく筋肉質だった。あんな生き物を前にしてそんな強気な行動に出れるのか、ひょろひょろでひ弱な日本人(a.k.a俺)にも適用できる対処法なのか。
不良に勇気だして歯向かったら、返り討ちにされてボコボコにされるもやしっ子の図がふと頭をよぎり冷や汗が出た。

暗くなり気温が下がってくると何処からともなく湧いて出た大量の蚊に襲われる。急いで夕食を食べ(バーナーは隣の夫婦に貸してもらった。サンキュービル!顔の感じから)慌ててテントの中に逃げ込む。

明日ハーフドームの上から見える景色はどんな景色だろう。
というか、その前に果たして2人とも無事に辿り着く事が出来るのだろうか。
そんな不安と期待が入り混じりながら眠りに着いた。


まどろむ夢の中、遠くで誰かが手を鳴らす音が聞こえた。